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今回筆者が参加し,研究発表を行った国際精子学会(以下,Spermatology学会)について,泌尿器科学会の会員の皆様には馴染みの薄い学会であることから,まず歴史を紹介する。1950年以前には精子研究者の多くは繁殖あるいは人工授精の国際会議に参加して討論を行ってきたが,1950年,生殖細胞に限定した国際的シンポジウムがイギリスのケンブリッジで開催されたのを皮切りに精子学に関する学会設立の機運が高まり,第1回Spermatology学会が1969年イタリアのシェーナで開かれた。本学会は,男性不妊症に携わっているわれわれにとって文献で名前を知るAfzelius(スウェーデン),Baccetti(イタリア),Bedford(アメリカ),Cummins(オーストラリア),小生が留学していたマックギル大学泌尿器科研究室長Gagnon(カナダ),Van der Horst(南アフリカ),日本での精子学の第一人者である毛利秀雄博士らによって育てられた学会である。本学会は4年ごとに行われ,最初は精子の形態,精子形成に主眼を置いた発表の場であったが,その後,精子の機能,運動,受精能など生物にとって最も重要な原点を担う細胞である精子についての基礎研究が加わり,最近は獣医畜産学,水産学的知見も加わり,筆者が参加し始めたカナダでの学会のあとは次第に医学分野の新しいデータの発表が増しつつある。
今回は哺乳類の生殖学の第一人者であるRoldan会長のもと,2006年9月17~22日までスペインで行われた。会場はマドリッド市内から車で1時間ほどのグアダラマ山脈の南斜面に広がる標高1,000mの街,緑豊かな高原で,夏は避暑地としてにぎわうサン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアルである。当地はすでに秋を迎え,観光客も少なく落ち着いた時期であり,フィリップ2世が建てたスペインでは珍しい装飾的要素を一切排除した宮殿兼修道院が重厚に参加者を迎えてくれた。学会の発表は11のセッション,すなわち精子形成と分化,DNAと核蛋白,情報伝達と精子機能,精子の生物学的進化,精子学と野生生物の保全,精子と卵の相互作用,副性腺とその分泌液の役割,受精の発生機構,精子運動,精子細胞の操作,精子とヒトの妊孕性に分かれ,各々についてシンポジウム,口頭発表,ポスター発表が行われ,活発な討論が交わされた。出席者は三百数十名で,日本からは開催国スペインについで33名の多数が出席した。筆者の教室は,口頭では「Limited differentiation and survival of spermatogenic cells after grafting adult and immature human testicular tissues to immunodeficient mice」と,ポスターでは「Japanese semen quality:a cross-sectional study of fertile men」を発表した。これらについて精細胞や精巣組織の移植による妊孕能の回復・維持の研究リーダーであるDobrinski博士がたいそう興味を持ち,相互に意見の交換を行ったことは,今後の研究の発展の励みとなった。
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