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1 診療の概要
尿路性器に基礎疾患を有さず独立した前立腺疾患のなかで,前立腺痛をはじめとして,頻尿,残尿感,排尿困難,腰痛,下腹部痛などの多彩な症状を認める疾患群を前立腺炎症候群と呼ぶ。Drachら1)は,前立腺炎症候群を急性細菌性前立腺炎(acute bacterial prostatitis),慢性細菌性前立腺炎(chronic bacterial prostatitis),非細菌性前立腺炎(non-bacterial prostatitis),および前立腺痛(prostatodynia)に分類した(表1)。1995年には,米国のNational Institute of Health(NIH)2)により新たな疾病分類が提唱された(表1)。NIHの分類では,さらに,臨床症状は認められず,病理組織学的に炎症所見を認める,あるいはほかの疾患の検査時に前立腺分泌物中白血球を認める場合をasymptomatic inflammatory prostatitis(typeⅣ)としてカテゴリーが新たに設けられている。通常,急性前立腺炎とは急性細菌性前立腺炎,NIHのtypeⅠを指し,慢性前立腺炎とは慢性細菌性前立腺炎,非細菌性前立腺炎と前立腺痛で,それぞれNIHのtypeⅡ,typeⅢAとtypeⅢBに相当する疾患群を指す。
慢性前立腺炎症状を示す疾患群の細菌の分離頻度は5~10%に過ぎない。主に,グラム陰性桿菌では大腸菌が,グラム陽性球菌では腸球菌,Straphylococcus属の細菌が分離される。非細菌性前立腺炎(NIH分類 ⅢA)は,一般細菌培養法で培養が不可能な細菌によるものや,前立腺組織内への尿の逆流(intraprostatic reflux)による炎症反応によるものなどの病因が想定されいるが,本疾患の病態は明らかではない。しかしながら,近年の分子生物学的な細菌検出法による前立腺組織内の細菌遺伝子の検出結果から,この病態にも何らかの細菌感染が関与している可能性が示唆されている。慢性前立腺炎症状を示す疾患群の60~65%を占める。前立腺痛(NIH分類 ⅢB)の病因は,非細菌性前立腺炎と同様に不明であるが,心因性要素によるもの,骨盤内静脈うっ血によるもの,骨盤底筋の過緊張によるものなどが想定されている。慢性前立腺炎症状を示す疾患群の約30%を占める。
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