Derm.2020
広く浅く
岡田 悦子
1
1産業医科大学皮膚科
pp.76
発行日 2020年4月10日
Published Date 2020/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412206021
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エキスパートの技は優雅で美しく,流れがわかりやすい.説明の名手は,ゆっくりはっきり,冗長すぎず明解である.病理供覧では,顕微鏡が意思を持って細胞に呼ばれたように動くことがある.私が師事した皮膚外科の指導医は,手技が優雅で術野は整然と美しく,助手という特等席で立ち会った多くの手術に感動した.しかし助手の立場で明瞭に理解できたつもりでも,自らの執刀では視界も流れも悪く,術中に何度も絶望したものである.なんとか執刀医の経験を積んで,若い先生達の指導をしつつ助手をすることが増えた.彼らは今にも顔が付いてしまうほど術野に近づいて,一生懸命に一点のみを突き進んで,層を見失ってしまう.同じ経験があるからこそ,あえて口出しをする.「広く浅く,術野全体を均等に切って.」広く浅く,では,物事を極めるにふさわしくないかもしれないが,多くの視点を持ち,弱拡大と強拡大を自由に行き来できるのがエキスパートへの第一歩だろう.進むときは全体像を考え,浅いときには最終の目標を見据えて,そしていつか,深く極めることを目指す.手術のみならず,美しく深い技に到達するために,広く浅く,と自分にも言い聞かせながら,修業の道はまだ長く続いていくだろう.
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