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近年の生物学的製剤の出現により,皮膚科領域の中でcommon diseaseであり二大慢性疾患であったアトピー性皮膚炎と乾癬が注射1本で治る時代になった.医師になってから約20年になるが,20年前の研修医時代を思い起こすと隔世の感を禁じ得ない.私は滋賀医大皮膚科で2年間の研修を行ったが,当時上原正巳教授がアトピー性皮膚炎を,段野貴一郎助教授が乾癬を専門にされていたため,外来も病棟も重症のアトピー性皮膚炎および乾癬の患者でごった返していた.当時のアトピー性皮膚炎の治療は,重症例にはステロイドの短期内服を併用するものの,基本的にはステロイド外用剤が主体であった.入院患者の全身にステロイド外用剤を1日2回塗布することは研修医の重要な仕事の1つであった.乾癬の入院患者には1日1回のゲッケルマン療法(コールタール軟膏塗布+紫外線照射)と1日1回のステロイド外用剤あるいは活性型ビタミンD3外用薬の塗布を行っており,これも研修医の仕事であった.入院治療により軽快してもしばらくすると元通りになって再度入院する患者も多く,時には無力感にも襲われた.現在日常診療で生物学的製剤を投与する機会が増え,これらの2疾患が外来で比較的容易にコントロールできてしまう状況に驚嘆するとともに,時代の変遷/学問の進歩に思いを馳せている.ほぼ毎日汗だくになりながら外用治療を行ったあの泥臭い2年間は何だったのかと思ったりもするが,今から思えば,自ら毎日外用することで皮疹の経過をつぶさに観察することができ,皮疹を診る目は養われたように思う.このような経験を若き研修医時代にできたことには感謝している.同時に今後安易に生物学的製剤に頼るようになってしまうと,皮疹をじっくり診て皮疹の成り立ちや悪化原因などを深く考える機会が失われていくのではないかと危惧もしている.昔のほうがプロフェッショナルな鑑識眼を持つ皮膚科医が多かったように感じるのは偏見だろうか.
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