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「ダーモスコピー」「皮膚付属器腫瘍」に続く大原アトラスの第3弾は「皮膚悪性腫瘍」である.巻頭にも書かれているように大原アトラスはシリーズ化され,今後の続編にも期待してよいようだ.ところで,本シリーズに共通する特徴は,非常にvisualなことだと感じている.アトラスなので視覚的なのは当たり前と思われるかもしれないが,症例写真の豊富さ,質,そこから伝わってくるメッセージが実に素晴らしいのである.写真の質の高さも単なる画質の良さによるものではなく,筆者の疾患を診る眼が反映された質の高さであり,全編を通じて大原先生のvisionが感じられる著作であることを強調しておきたい.
そのvisionが端的に表れているのが,本書のテーマの1つである多様性(variation)だ.腫瘍は多様性に富み,癌腫,分化の方向や臨床病理学的亜型,発症部位,進行の程度や時間的推移(chronology)などの要素により臨床的特徴が規定される.そして本書では腫瘍の多様性が実診療に則した観点から整理されている.単に疾患別に分類するのではなく,まず発症部位別に分類し,さらに各部位の中で疾患別に細分化しているのだ.その特徴ある構成をさらに使いやすくしているのが工夫の凝らされた目次で,頁に沿った部位別目次に加えて疾患別の目次が設けられている.ぜひ実際に手にとってその使い勝手をみてもらいたい.部位別目次を見ると各部位にどのような皮膚悪性腫瘍が発症しやすいかが,疾患別目次をみると各疾患の好発部位がどこなのかが一目でわかるような仕組みになっている.さらに部位別となった各章の最初の頁には本書に取り上げられている症例の臨床像が並べられており,各部位における疾患の頻度,各疾患のその部位でのvariation,疾患による好発するsubunitの微妙な違い,時間的推移,さらには鑑別疾患など非常に多くの情報が見開き数頁内に網羅されている.序章にも「診察室に常備しておいて,診察のかたわらで参照できるようにしたつもりです」と記載されているが,まさに診察室の傍らに置いておきたい1冊である.
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