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この5月,ザルツブルグで日欧の皮膚電顕学会の合同会議に参加する機会を得た.ヨーロッパ側はsociety for cutaneous ultrastructural research,日本側は皮膚かたち研究学会(旧日本電顕皮膚生物学会)のjoint meetingである.電子顕微鏡を用いた研究は1970年ごろから1990年ごろがピークで,通常の病理組織所見がどのような微細構造からなっているか,盛んに研究された.その後は免疫電顕法の登場により細胞の微細構築と構成蛋白の対応が解明されるようになり,今日を迎えている.通常の電顕を用いた形態学のみでは研究が進まない時代となり,電顕ができる若手が激減したという悩みは万国共通である.学会終了後,皮膚科主任教授のHinter教授にお願いしてザルツブルグ大学医学部内に設置されているEBハウスを見学させていただいた.表皮水疱症(epidermolysis bullosa:EB)の患者のための施設である.EB患者を専門に診療するEB専門外来,EB治療開発のためのEB研究所,患者さん・医師・看護師などの教育ネットワーク構築のためのEBアカデミーの3部門から構成され,年間予算は1億円である.専任の医師が3名おり,表皮水疱症の脆弱皮膚のケアを指導するEBナースも2名常駐している.1つの希少皮膚疾患にこれだけの投資がされていることに驚嘆したが,これらはDebRAという患者団体(患者支援団体)が出資している.団体の運営資金は国の補助金と企業の寄付金である.日本の医療制度は国民皆保険であり,全員が一定水準の医療を公平に受けられる世界に誇る制度であるが,EBのような生涯にわたりびらん処置,指の癒合解除術などを受ける必要がある患者さんに対して,医療費軽減の施策はあるものの,積極的な診療,看護支援の体制はない.ニュージーランドでは毎日自宅で訪問看護師による全身びらんに対する処置を無料で受けられる.バリアフリーなどのインフラ整備もそうであるが,社会的弱者に対する扶助は日本より進んでいるのは宗教や文化の違いも関係しているのであろう.
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