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以前から紫外線によるDNA損傷とその修復に興味を持っていた.学内の学位審査の過程で文献を調べていたところ,DNA損傷とその修復は多岐にわたること,また,その経路に関与する分子の解析が進んでいることが分かった1).これらのDNA損傷の修復過程の異常によりさまざまな疾患が生じることが解明され,それらを総称してしてchromosomal breakage syndromeと呼ぶ報告もある2).その中には乳癌や大腸癌のほかにいくつかの遺伝性皮膚疾患が含まれる.色素性乾皮症(XP)をはじめとする光線過敏症をきたす疾患や血管拡張を皮膚症状とする疾患,早老症として扱われてきた疾患がある.
紫外線により生じるピリミジンダイマーや(6-4)光産物はnucleotide excision repair(NER)で修復されるが,XP variant以外のXPはNERに関与した分子に異常があり,NERが正常に行われず,光線に対して過敏であり,後に皮膚癌を生じる.NERの一つであるtranscription-coupled repair(TCR)に関与するCSAとCSAはCockayne症候群(CS)に関与する.CSはXPと異なり,皮膚癌の増加はみられない.その他のDNA損傷修復として,放射線や抗癌剤などで生じるdouble strand breaks (DSBs)の修復にあたるhomologous recombination (HR)とendo-joining (EJ)がある.DSBsを修復する過程で,蛋白リン酸化酵素であるATMとATRが中心的な働きをする.ATMはataxia telangiectasia (AT)の責任遺伝子がコードする蛋白である.また,DSBsの存在するDNA損傷部位にいち早く結合するNMR complexの構成成分であるMre11とNSB1はそれぞれATの類似疾患であるAT-like disorder(ATLD)とNijmegen breakage syndrome(NSB)の責任遺伝子がコードする分子である.また,その作用機作は不明であるが,HRにはDNA二重らせんを解きほぐすhelicaseがいくつか関与している.ある種のhelicaseに異常が起こると光線過敏をきたすRothmund-Thomson症候群 やBloom症候群,あるいは早老症の一つであるWerner症候群が発症する.DNA損傷修復に関与する分子の異常により発症する皮膚疾患の多くは悪性腫瘍が生じやすいので3),今後,それらの疾患の発症機序とともに発癌機序も明らかにされることを期待している.
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