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大学の臨床教授
大学の教授選考では,候補者の発表論文のimpactfactorを合計して評価することが重要な項目になっている。専門の異なる講座の教授が選挙するのだから客観的評価項目としては確かに価値がある。しかし,このところ臨床畑の教授選では,「研究より臨床」を重視するという傾向が盛んである。高いimpact factorをもつjournalは基礎医学,生物学研究内容が採用されやすく,生々しい臨床報告はなかなかacceptしてくれない。大学病院という現場で,病める人と直接接する医療を担当するのだから診断・治療に秀でた腕をもっていなければならないし,外科系は特に切ったり張ったりの腕が要求される。だから,研究などそれほどの業績はなくても「臨床教室の教授」として低く評価するのは間違いだ,というのが理由である。日本耳鼻咽喉科学会はそのような表明を学会誌に掲載した。耳鼻咽喉科という広い守備範囲で,メスを離れた内科的専門領域があるにもかかわらず,外科的手技だけを重視した片手落ちの声明内容ではあるが,これも臨床技術重視の耳鼻咽喉科学教授選考に手を貸したことになった。
この話の流れには納得する人も多いであろう。診療技術をartとして認識し,それが臨床医の基本であることは当然のことなのだが,しかし,何でも行き過ぎがあるように,技術を重視するあまり,研究業績を軽視するようになっては一大事である。研究には「臨床研究」というのがある。動物実験だけで物をいうのではなく,「人」の生物現象の探究から「人の病」に直結した研究,新しい診断・治療へと切り込んだ研究や開発研究が「臨床研究」である。生物学や基礎医学研究で獲得した高いimpact factorでなくても,臨床を見据えた研究で得たimpact factorは重視しなくてはいけない。その人の科学的思考による問題解決チャレンジの歴史が記録されているのであり,その人の臨床研究報告を通じた科学者としての大切な評価材料だからである。その人の哲学さえうかがえるものもある。
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