鏡下咡語
聴覚電気生理学ことはじめ
森満 保
1
1宮崎医科大学
pp.868-869
発行日 1997年11月20日
Published Date 1997/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411901684
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ここでの鏡は手術用双眼顕微鏡で,鏡下にあるのは主としてモルモットの耳である。そこで行われるのは蝸牛への電極挿入手術であり,聴覚電気生理学的電位の記録である。囁語は時に実験の意義や失敗への嘆きの言葉であり,時に成功の歓喜の声である。
昭和32年春,私は九州大学耳鼻科に大学院生として入局した。その秋,久留米大学から河田教授が着任された。入局当初は岩本助教授のもとで頭頸部悪性腫瘍を学ぶつもりであったのが,急遽聴覚電気生理学を研究することに変わった。直接指導は河田教授が連れてこられた松尾和巳先生である。先生は実に電気工学に堪能で,倉庫に放置されていた径10cm程のブラウン管がついた筋電計を探し出し修理,猫の正円窓からボール電極による蝸牛マイクロホン電位(CM)の記録実験を供覧された。口笛に反応して振幅をかえる黄色い交流波形が今でも鮮やかに目に浮かぶ。刺激音は純音発信器のみで持続音しか出せない。どんな実験をするか相談し,蝸牛窓と前庭窓から個別に,また同時に音刺激してCMの相互干渉を観察,鼓室形成術の原理を検討し研究班のCM関係の1号論文にした。
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