- 有料閲覧
- 文献概要
口腔領域における良性腫瘍について,今後の診断と治療の一助とするべく,当科で過去13年間に治療を行った新鮮例15症例を検討した。5歳から79歳までの男性8例,女性7例である。部位別では舌が8例と最も多く,軟口蓋,頬部各2例,硬口蓋口蓋垂,扁桃,口唇各1例であった(1例で多発)。組織学的には,血管腫6例,乳頭腫3例,多型腺腫2例,脂肪腫,神経鞘腫,線維腫,間葉腫が各1例であった。血管腫の5例では暗赤色で軟らかく(図la,b)術前診断が容易であったが,1例では舌深部に存在し弾性硬であり,CT,MRI並びに血管造影にて血管腫と診断された(図1c,d)。乳頭腫は全例特徴的肉眼像,すなわち白色で表面が粗慥でこんぺい糖状の凹凸,あるいは繊毛状であり(図2),診断は容易であった。多型腺腫の2例はいずれも口蓋粘膜下にあり弾性硬,境界明瞭,CTにて内部やや不均一な筋組織とほぼiso-densityな充実性腫瘤(図3)であり,発生部位を考慮して多型腺腫が推測された。脂肪腫は触診上軟らかい腫瘤であったことより診断され,神経鞘腫,線維腫,間葉腫の3例は,十分な画像診断ができなかったため術前には良性腫瘍とのみ診断された。ただ,間葉腫では単純X線検査で骨様陰影がみられ(図4) CTにて脂肪と骨組織の存在が示唆され(図5),良性腫瘍として手術を行い,その病理組織検査にて3つの間葉由来組織,すなわち線維,脂肪,骨を実質とする間葉腫と最終診断された(図6)。
治療は12例に対して全身麻酔下に,舌乳頭腫と線維腫の2例には局所麻酔下に腫瘍摘出術を行った。血管腫の3例,乳頭腫の2例,多型腺腫の1例にはレーザーを使用し,血管腫の2例では術前に塞栓療法を併用した。舌血管腫1例では局麻下に凍結療法を行った。再発を認めたものは3例あり,頬部血管腫症例では初回手術の3年後に,頬部間葉腫症例では2年後と3年後にそれぞれ再手術を行った。また外来で局麻下に手術を行った舌乳頭腫症例では4か月後に外来での局麻下手術を,7か月後には入院のうえレーザー手術を行った。舌乳頭腫の粘膜表層の血管腫や上皮性腫瘍である乳頭腫はその特徴的性状から診断が比較的容易であるが,深部の血管腫や他の粘膜下腫瘍ではCT,MRI,血管造影などの画像診断が有用であり,今後も特徴的所見の蓄積が必要と思われた。再発を認めた頬部の血管腫と間葉腫症例は,いずれも2歳と5歳の幼児で口腔が狭く,十分な視野が得られにくいことが推測される。残りの舌乳頭腫症例は外来で局麻下に手術を行っており,切除範囲が結果的に不十分であったものと思われ,今後これらの点をより慎重に考慮した手術が必要と思われた。
Copyright © 1995, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.