鏡下咡語
「診断書の価値」—補償に係る診断書
調所 廣之
1
1関東労災病院耳鼻咽喉科
pp.234-235
発行日 1992年3月20日
Published Date 1992/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411900516
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診断書は聖域か
刑法第180条には『医師が公的機関に提出する診断書に虚偽の記載をした場合』三年以下の禁錮または二万円以下の罰金を科することになっている。これは刑事罰を科すことによって,医師の診断書の信用度を高めていることにほかならない。従って,医師の診断書は公的機関の補償の判断あるいは裁判において信頼すべき資料として用いられ,保険会社はこれを信頼して査定を行うことになる。しかし,現実には裁判あるいは保険会社の算定などにおいて,医師の診断書はそれほど信頼されていないのである。事実,診断書の中には,いい加減なものも少なくない。医師は故意に冒頭の刑法に触れるような虚偽の診断書を記載することはない。ところが疾病や傷害の医学的,あるいは社会的認識に欠けた診断書は少なくないのである。
事実,最近の損害賠償の裁判などでは,医師の作成した診断書は単なる意見として扱われる傾向にある。過去には,診断書の証拠としての価値は絶対的なものであった。従って,医師に対するる証人尋問も,当該医師により作成されたか否かの確認子続きに限られしていた。しかし現在では診断書の内容は,医師の個人的意見とみなされる傾向が強くなっている。そのためその意見の根拠,すなわちカルテの内容そのもの,診断経過などが損害賠償訴訟の争点になることが少なくない。
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