特集 耳鼻咽喉・頭頸部領域の痛み—その機序と臨床
III.非癌性疼痛
心因性疼痛
加我 君孝
1
,
大蔵 真一
1
1帝京大学医学部耳鼻咽喉科学教室
pp.943-951
発行日 1989年10月20日
Published Date 1989/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411200443
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はじめに
頭頸部領域の疼痛で心身医学的なとりあつかいの必要な対象は,心理的な葛藤がもたらす身体症状としての疼痛と身体疾患がもたらす疼痛による心理反応の2つに分けることができる。本稿では,主に前者についてとりあげる。体性感覚の一つで原始感覚である痛覚は,平衡覚や視覚と同様に発生学的に早期に出現するものの一つである。痛み感覚は①外界からの刺激に対する逃避反応として自己の生命を守る働き,と②生体内部の何らかの刺激によって生じる場合の,障害部位や内容を知らせる警告反応の働き,の2つに分けることができる。いずれにしろ生体の警告信号・反応系としてとらえられる。しかし,痛み自体は,われわれにとって,苦しいものであるため避けたいと願っている。注射時の一時的な痛みですら,苦痛であり,慢性の痛みは,俗にいう針のむしろの上に,身を置いているかのように感じてしまう。
痛み刺激が強ければ強いほど,われわれはつらく,苦しくなり,ある境を越えると,泣く,叫ぶなどの恐怖状態からパニックに陥る,断末魔の悲鳴などの表現は,このような状態をさす。すなわち,痛みの極限は死の恐怖とつながっている。刑罰の歴史では,自白の強要に拷問を加え,罰としてムチ打ちの刑を加えたりしている。現在でも教育上体罰を加え,同じことを繰り返えさぬように,恐れを抱かせたりする。痛みの背景は,広く深い。頭頸部の心因性の疼痛は心理的葛藤に,どのような特徴があるであろうか。
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