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Ⅰ.はじめに
今から18年前の1992年に開催された日本耳科学会において,富岡ら1)が『気管支喘息における難治性中耳炎』として紹介したのが,後に好酸球性中耳炎と呼ばれる『聾になることもある難治性の中耳炎』の最初の報告であり,その後,各地から同様な報告が相次いでなされるようになった。当初は,アレルギー性中耳炎の名称も使用されていたが,炎症の主体はⅠ型アレルギーというよりも好酸球であるといった考えから,『好酸球性中耳炎(eosinophilic otitis media)』と命名され,現在に至っている2,3)。中耳貯留液中にTh2サイトカインであるIL-5の存在が証明されていることなどからいえば4),アレルギー性疾患の範疇に入る疾患であることは間違いない。しかし,本症に対する治療のターゲットを肥満細胞ではなく,好酸球とするのが臨床上も有効であることを考えれば,本症を好酸球性中耳炎と呼称するのは理にかなっている。
その後,本症に対する臨床研究として,小林,鈴木ら5)により好酸球性中耳炎の全国調査が行われ,疫学や臨床像が明らかとされてきた。その中で,本症の最大の問題点である難聴については,約半数で骨導聴力が悪化しており,特に聾に至った症例は6%との注目すべきデータが報告されている。また,Nakagawaら6)は,本症に対して適切な治療が開始されるまでの罹病期間と,高音部の難聴とが有意に相関することを明らかにしている。さらに,難聴の進行速度は通常の慢性中耳炎に比べて約10倍の速さであるとも報告している6)。それだけでなく,中耳の局所所見が比較的落ち着いている症例でも,突然に感音難聴が進行する症例もある。いったん,急激に聴力が悪化しはじめるとステロイドなどの全身治療に抵抗性を示し,最終的に聾に至ることがある。早期診断と適切な治療が重要な疾患とされているゆえんである。
このような背景の下に,2008年に,飯野ゆき子(自治医科大学)を代表として,松谷幸子(仙台日赤病院),中川尚志(福岡大学),野中 学(日本医科大学)および筆者の計5名により,好酸球性中耳炎研究会(Eosinophilic Otiits Media Study Group)が結成され,好酸球性中耳炎の臨床研究がさらに進められてきた。本稿では好酸球性中耳炎研究会から発表されたデータ7)を呈示し,好酸球性中耳炎の臨床像,診断,治療について解説する。
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