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I.はじめに
一般的に,慢性中耳炎に対する治療法としては手術が選択されることも多いが,好酸球性中耳炎に対しては,手術により増悪し聾となった症例も報告されており1),「好酸球性中耳炎では粘膜の病態がコントロールされない限り手術を行っても完治に至らない」と考えられている2)。したがって,好酸球性中耳炎の治療に当たっては手術は禁忌,あるいは極めて慎重に適応を決定しなければならず,保存的な治療による疾患のコントロールが重要となる。
好酸球性中耳炎では,耳漏,あるいは中耳貯留液は非常に粘稠なニカワ状を呈しており,多数の好酸球が認められるのが特徴である3)。好酸球にはECP(eosinophoil cationic protein)やMBP(major basic protein)などの組織障害性蛋白が存在する。Iinoら4)が既に報告しているように,この中耳炎の粘膜病変には,分泌型ECPに対する抗体,すなわち活性型好酸球の指標であるEG2陽性の好酸球の浸潤が著明で(図1),貯留液中のECP濃度も高値を示す。また,組織中の活性化した好酸球は脱顆粒が著明であるだけでなく5,6),中耳貯留液の好酸球はネクローシスに陥った細胞が多いと報告されている7)。好酸球性中耳炎の貯留液は粘稠であるために容易には中耳腔から排泄されず,長時間にわたって中耳粘膜が好酸球から放出された組織障害性蛋白の影響を受ける。このような好酸球を含んだムチン(好酸球性ムチン)が粘膜病変の形成,増悪に深くつながっていると考えられる8)。
好酸球性炎症を制御するためには,ステロイドが第1選択となることは疑いがなく,病変の程度に応じて局所投与あるいは全身投与が行われるが,ステロイドの使用が長期にわたると種々の副作用の危険がある。
われわれは,好酸球性炎症の制御と中耳腔内の好酸球性ムチンの速やかな除去を目的として,抗アレルギー剤やヘパリンの併用によりステロイドを減量する治療を試みてきた。本稿では,自験例だけでなく他施設からの情報も紹介しながら,好酸球性中耳炎に対する保存治療について述べる。
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