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Ⅰ.はじめに
頭頸部腫瘍の手術に当たっては,もちろん,腫瘍そのものの制御が最重要課題ではあるが,次に述べるような他領域の悪性腫瘍に対する場合と大きく異なるいくつかの問題点が,切除範囲や術式,アプローチの方法を大きく左右する。
(1)限られた領域に,生命維持に重要な器官(内頸動脈,迷走神経を始めとする脳神経や交感神経,リンパ管など)が集約し,またこれらが互いに複雑な位置関係を保ちながら存在している。
(2)限られた領域に生命維持やQOLに直接関与する機能が集約して存在している(生命維持に重要な嚥下機能や呼吸機能,QOLに重要な音声言語,味覚機能,嗅覚機能,さらに表現機能や“みられる”機能など)。
(3)1つの器官自体が多機能性を有している(例えば,舌では,味覚・構音・咀嚼・嚥下,喉頭では呼吸・嚥下・発声・胸郭固定による上肢運動などの多機能性を有している)。
(4)頭頸部腫瘍切徐後には,再建を行ったとはいえ,病前と同様の機能を発揮し得るものではないので,頭頸部領域の有する多機能性のうち,何らかの『障害』が発生することとなる。
したがって,頭頸部腫瘍外科医は腫瘍の根治性を高めたいという思いと,可能な限りの機能温存を図りたいという思いとの狭間に悩むことになる。特に嚥下に障害が発生した場合,もしくは発生すると予測された場合には,十分な対策を講じる必要がある。嚥下障害により,水分・栄養摂取の問題,誤嚥による下気道の問題,経口摂取という本能的要求に対する心理的負担とともに,水分・栄養摂取の不足は創傷治癒や感染などの諸問題を,また,創傷治癒の遅延や嚥下障害の遷延化がうつ状態や意欲の低下を惹き起こすなどといったことにまで発展する1)。頭頸部腫瘍術後の嚥下障害に対するチーム医療とは,多くの患者を抱え,日々治療に悩む頭頸部腫瘍外科医と,経口摂取を切望する患者という2つの頂を繋ぐ尾根を形成することであり,嚥下障害という険しい山道の歩みを支えることでもあると考えられる。その際,重要なことはチームのメンバーは決して,この2つの頂を越えず,支えることを常とするものでなければならない。それは,頭頸部腫瘍外科医と患者という2つの頂を結ぶ『信頼関係』という目には見えぬが最も重要な関係と互いの頂をいつでもよく見据えられるようにしておく必要があるからである。
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