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I.はじめに
回転検査には,大別して2つの方法がある。1つは,重力方向を回転軸として回転刺激を与える方法であり,EVAR(earth vertical axis rotation)と呼ばれる(図1a)。もう1つは,回転軸を重力方向に対して傾斜させて回転刺激を与える方法で,非(偏)垂直軸回転(off vertical axis rotation:OVAR)と呼ばれる(図1b)。
EVARは重力方向を回転軸として回転刺激が与えられ,角加速度刺激により半規管が刺激される。そのため,従来から半規管の機能検査として広く臨床応用されている。それに対して,OVARでは,回転軸を重力方向に対して傾斜させるため,回転に応じて被検者頭部に加わる重力加速度の方向が経時的に変化する。その結果,耳石器に直線加速度刺激が加わり,耳石器眼反射による眼振が誘発される。OVARは耳石器機能検査として,最近になって特に注目されてきている。
この傾斜を強め,重力軸に対して回転軸が直交する回転は,以前からバーベキュー回転(barbecue rotation, earth horizontal axis rotation:EHAR)として知られており,耳石器の機能解析のため用いられている(図2)。1960年代にEHARで等速回転中にも眼振が持続することが報告された1,2)。この回転軸の傾斜をいろいろと変化をさせて動物実験が行われたのが,OVARの始まりである3)。これらの持続する眼振や回転感覚の起源となる神経機構については,多くの研究者により,EHAR刺激時の回転軸に直交する重力が耳石器を刺激することによって生じる神経活動が最も重要であると報告されている1,4,5)。また,動物実験で,6つの半規管を遮断してもOVARは本質的には影響を受けず,前庭神経を切断するとOVARが消失することがわかっている。このことは,OVARによって生じる持続的な眼振と回転感覚が,半規管由来でなく耳石器由来であることを示している。
主として動物実験の結果を踏まえてFurmanら6,7)は,ヒトの耳石器機能検査としてOVARを用いるため,ヒトを対象としてOVARの実験をしている。彼らは,ヒトで等速度回転刺激および振子様回転刺激でOVARを施行し,その間の眼球運動を電気眼振図(ENG)に記録した。その結果,ヒトでも同じように水平性の眼振が生じることを証明し,OVARの耳石器機能検査としての有用性を示した。また,OVARの眼振は傾斜を戻してもすぐには消失しないことから,この眼振の発現には速度蓄積機構(velocity storage mechanism)が関与していると考察している。この速度蓄積機構が関与する眼球運動として,古くから回転後眼振が知られている。脳幹に存在する神経積分器が,前庭入力を時間経過とともに指数関数的に蓄積し,前庭入力が切れた後も保持することによって働くといわれている。
OVARを行うと被検者は強いめまいを感じ,普段みることができないような眼球運動を観察することができる。われわれはヒトのOVARの眼球運動を三次元解析し,水平,垂直,回旋の3つの眼球運動が同時に起こっていることを示した8)。この検査によって耳石器機能の評価が行える可能性が高く,現在も研究が進められている。
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