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扁桃は免疫臓器であり,感染臓器でもあります。その二つの均衡の中で,ある時は感染源として,ある時は免疫臓器として予防的な作用,ある時は病巣性疾患の原因臓器として,ある時は肥大のために呼吸障害の原因となり,ある時は腫瘍の原発部位にもなる臓器です。40年以上にわたり扁桃研究に打ち込まれた形浦先生は「扁桃は個性豊かな臓器」と表現されたように,基礎的,臨床的のみならず多方面から扁桃に取り組まれました。本書はコメディカルスタッフを対象としていますので,臨床的な内容を中心としていますが,読みながら疑問に思うことに対して,多方面からの基礎的・臨床的なデータ,図,グラフを用いて,わかりやすく解説されています。
内容は扁桃の基礎,扁桃炎とは何か,扁桃の臨床(各論),伝染性単核球症,慢性扁桃炎,習慣性扁桃炎,扁桃肥大,扁桃の検査にはどんなものがあるか,扁桃と全身疾患,扁摘を考える,アデノイド,いびきと睡眠時無呼吸症候群,扁桃腫瘍,日常診療における他科・境界領域における対応,扁桃に関するトピックスの15章からなっています。扁桃の基礎では扁桃の解剖から,細菌叢について,免疫担当細胞・サイトカインの分布まで網羅されています。扁桃炎についてはその定義や分類,起炎微生物による扁桃の特徴が述べられ,重症度スコアの付け方,それに基づく治療方針にも言及されています。伝染性単核球症ではその発症機序や特徴が述べられるとともに関連したウィルス関連血球貪食症候群についても詳述されています。扁桃摘出術(扁摘)の適応について問題となる習慣性扁桃炎については,その発症機序から解説され,患者の意向や社会性,医療経済効果,免疫能の低下などもふまえて考察されています。病巣診断法について,他院,他科からの病巣診断依頼があった時には困ることもありますが,その診断にいたる考え方,現状での診断法について述べられています。扁桃と全身疾患では扁桃が病巣であると考えられる疾患,具体的には掌蹠膿疱症,尋常性乾癬などの皮膚疾患,関節リウマチ,胸肋鎖骨過形成症などの関節疾患,IgA腎症を中心として,他に喘息,ぶどう膜炎,微熱にも言及され,それぞれの病態,発症機序,病巣診断法,扁摘の適応基準,扁摘効果が詳述されています。アデノイドでは手術法,アデノイド切除術の適応,術後管理について述べられています。いびきと睡眠時無呼吸症ではいびき,OSAS(閉塞型睡眠時無呼吸症候群)の定義,診断法,高血圧や赤血球増多症に至る病態生理,n-CPAP(経鼻持続陽圧呼吸)やUPPP(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)の適応についてわかりやすく説明されています。また,小児のOSASについて年齢とともに変化する気道の構造や肥満を合併すること,また,脳性麻痺や小顎症など難治例についての問題点を挙げられています。咽喉頭異常感と扁桃との因果関係,咽頭痛,舌根扁桃肥大,扁桃炎の予防,扁桃と学校保健などの問題についても取り上げられています。
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