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「精神医学」誌が発刊後30年を迎えると知らされ,古い昔のことになるが,口火を切った故井村恒郎教授の驥尾に付して計劃に参画,新雑誌の性格などについて議論しあったときのことどもを感慨ぶかく思い起した。当時のわが国では,精神医学関係の雑誌は学会誌としての精神神経学雑誌がひとつあるのみで,その内容も内村祐之先生が創刊20年の記念誌に,当時の学会誌の「内容は学位論文風のものが多くて,臨床医家に必要な知識の啓蒙や綜説のようなものは非常に少なかった」と書いておられる通りで,大学の教室を離れて,精神病院に出て精神医療の第一線に身を挺している人たちにはなじみにくいものであった。この間のことについては,以前に本誌に短い文章をのせたことがあるので繰返さない。このような大学の教室を離れた人々にも,自由に現実の医療の場での経験について投稿もし,知見の交換もできるようなフォーラムを設ける必要があるとの熱い思いが胸の中にあったのだった。誌名を英文ではClinical Psychiatryとしたのもその心意気であった。このわれわれの企劃には,話をもちこまれた医学書院側もはじめは,採算の面からであろうが,なかなか腰が重かったが,遂に踏み切ってくれたのであった。これを成功させなければと深い責任を感じたことを覚えている。幸にこの企劃は成功した。時とともに読者層も拡がって行ったことにも現われていたと思う。編集会議も活発で,互いに遠慮をせぬ楽しいものであった。
ところで,先日,訪ねてきた若い友人に最近の「精神医学」についての感想を求めたところ,貰った返事は思いがけないものであった。創刊の頃のものはNervenarztなどを意識していたものと思うが面白かった。しかし,最近のものは余り面白くないし,自分の病院の医局にも揃えてはあるが,余り読まれているとは見うけられない,というのであった。年月とともに,創刊当時とは学会の空気も変り,編集方針も変っているし,類似の雑誌もいくつかあるという事情もあるのかもしれない。また,他の雑誌名をあげて同じ問いをしてみれば,やはり,同様な返事がもどってきたかも知れないとも思うが,勉強家として知られた友人の答えであっただけに考えこまされたことは事実であった。
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