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頸部リンパ節腫脹をきたす疾患は多岐にわたるが,結核性頸部リンパ節炎は肺外結核の中で最も多く,鑑別疾患として忘れてはならない疾患の1つである▲1)▲。しかし,悪性腫瘍のリンパ節転移や壊死性リンパ節炎などとの鑑別に苦慮することも多い。
今回われわれは,口腔内に腫瘤を形成した結核性頸部リンパ節炎の症例を経験したので報告する。
症例:58歳女性。
主訴:右顎下部腫瘤。
既往歴:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)。
家族歴:母が肺結核に罹患。
現病歴:2003年5月下旬頃より,右顎下部の腫瘤を自覚した。近医を受診し,MRI,CT,ガリウムシンチグラフィーを施行した(図1~3)。顎下腺腫瘍を疑われ穿刺吸引細胞診を施行し,adenocarcinoma,classⅢbと診断されたため,6月27日当科を紹介され受診した。
初診時現症:右顎下部に多発性のリンパ節腫脹と,頬粘膜および下歯肉部粘膜下に隆起性病変を認めた(図4,5)。
経過:口腔癌の頸部リンパ節転移も考慮し,2003年7月10日,診断確定のため入院した。入院時,胸部X線検査にて異常はなく,血小板4.0万/dlとITPに伴う血小板減少を認める以外に血液検査所見にも異常を認めなかった。ITPのコントロールのため,ガンマグロブリン療法を施行し,8.4万/dlと血小板数の増加傾向を認めたため,7月17日に局所麻酔下に頸部リンパ節と頬粘膜腫瘤に対し生検を施行した。
病理組織所見:リンパ節では,融合傾向のある大小の類上皮細胞性肉芽腫がリンパ節内から被膜,周囲脂肪組織にかけて多発して認められた。肉芽腫の中央にはところどころで乾酪壊死巣が認められ,類上皮細胞の間には多核巨細胞が散見された。頬粘膜腫瘤においては,粘膜扁平上皮は保たれているが,リンパ節と同様に粘膜固有層内に乾酪壊死を伴う肉芽腫が多発して認められた(図6)。以上より結核症と診断された。Ziehl-Neelsen染色はいずれも陰性であった。
術後経過:結核性頸部リンパ節炎の診断を得たため,肺結核の診断目的に早朝喀痰,胃液の塗抹,培養およびPCR法を施行したがいずれも陰性であった。ツベルクリン反応は10×10mmと弱陽性であった。胸部CT上も異常を認めなかったが,ITPの加療も含め当院内科へ転科のうえ,イソニアジド(INH),リファンピシン(RFP),ピラジナミド(PZA),エタンブトール(EB)の4剤併用療法を開始したところ,徐々に腫瘤は縮小した。投与開始後1年経過した時点で腫瘤は消失したため,抗結核薬による治療を終了した。1年3か月経過した現在のところ再発を認めていない。
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