文庫の窓から
『医心方』
安部 郁子
1
1研医会
pp.1549-1554
発行日 2021年11月15日
Published Date 2021/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410214226
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
平安時代から読み継がれた医書
『医心方』は平安時代,鍼博士であった丹波康頼(912〜995)によって著された書物である。この『医心方』の読み方は,石原明の英文解説書 “The Tao of Sex”(1968)で “Ishinpo” と綴られ,また室町時代以前はハ行は唇を合わせて発音するのが通例であったから,「いしんぽう」となり,半井家では「いしんぽ」と呼ばれていたということが杉立義一の『医心方の伝来』1)に書かれている。
本貫地の丹波国から都に来て,典薬寮医官となった丹波康頼は中国医書を研究した。長年の研究の成果を70歳をすぎてからまとめ上げたのが『医心方』三十巻だ。引用した底本の数は204(馬継興による),条文数は10,880であるという。医学・本草・養生について,漢文で書かれた『医心方』は永観2年(984)11月28日,花山天皇に奉じられた。引用した中国医籍の条文を見ると,中国においては北宋の大きな改編などで失われている隋唐時代の文章が見られることもあり,大変貴重な書物で,現在ユネスコ世界遺産としての登録を目指していると聞く。
Copyright © 2021, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.