談話室
欧米旅日記(其の五)
萩原 朗
1
1東京大学
pp.1309-1317
発行日 1957年10月15日
Published Date 1957/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410206158
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ニユーヨークからロンドンに向うPAAの航路は,暫くはLong Islandの海岸に沿つて進みますが,ボストンの東方海上で,北アメリカ大陸に別れを告げ,幽かに星の瞬く北大西洋上の闇を縫つて,真一文字に東進します。機内は満員で,生憎3人掛けの真中に挾まれたので相当に窮窟です。窓際の人は,何かの学会に出席する人でもあるのか,無津ケ敷い数式の入つた原稿を,頻りに調べています。スチユワーデスが廻つて来て,一通り寝具の世話を済ませて行くと,間もなく大部分の灯が消えました。
何時間睡つたでしようか,機から地上への信号の音で眼を覚して見ますと,夜はとつくに明け放れて,窓下には英国の山や平野が展開して居ります。まだ醒めやらぬ夢心地で,ロンドン郊外の空港に降立つたのは,9時25分でした。ニユーヨークを発つたのが昨夕の5時30分でしたから,時計の面では,約16時間かかつているわけですが,大西洋上の時差が5時間ありますから,夏時間を考慮に入れて正味10時間の滞空ということになります。税関では,「英国の貨弊を持つているか。」と聞かれ,「ノー」と答えたたけで簡単に済み,直ちにバスでVictoriaAir Terminalに向いました。
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