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本稿を書いている2012年12月に,京都大学の山中伸弥先生のノーベル賞授賞式がストックホルムで開催されました。最近,中国や韓国から発信される医学論文数の激増と,それとは対照的な日本の論文数減少が話題になっています。つまり,日本の医学レベルは相対的に低下しているということなのでしょうが,このニュースはその危機感を吹き飛ばすものであり,自信を取り戻した方も多いと思います。今回の受賞は,山中先生個人の才能と努力によるものが大きく,日本国が先生の研究のために戦略的に特別なことをしたわけではありません。しかし,受賞に際しての謙虚な姿勢と今後の社会貢献を述べられる先生の姿は,理想の日本人像を見るようで非常に爽やかな気持ちになりました。
さて,本号の特集は中心性漿液性脈絡網膜症です。網膜下液が貯留する原理を喜多先生,病態解析を髙橋先生,森本先生および丸子先生,関連因子を本田先生,治療方針を後藤先生,自発蛍光を石龍先生が解説されています。中心性漿液性脈絡網膜症は古くから知られていますが,ここ10年の間に新しい病態の理解とそれによる新しい治療法が確立された疾患のひとつです。今回の解説を読んで,この進歩には多くの日本人医師の貢献があったことがわかりました。巷間伝えられるように,日本の眼科研究レベルは決して低くはなかったのです。しかしながら,それは過去のことです。山中先生は受賞後の会見で「ノーベル賞受賞は過去のことであり,さらに新しく研究を進めたい」と述べられました。医学研究は,現在も弛まぬ勢いで進歩を続けています。10年後の本誌で,ある疾患の特集を組んだときに,その進歩にはやはり日本の研究者が大きく貢献していたといわれるためには,レベルは違えど山中先生のように常に新しい地平線を目指す努力が必要であると感じます。
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