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はじめに
網膜に入射した光(映像)情報は,視細胞によって捉えられ,二次ニューロン(双極細胞,水平細胞,アマクリン細胞)の調節を経て,神経節細胞の軸索を通して脳に伝えられる。この機構から,視細胞が何らかの要因で障害されると,そのほかの神経細胞が正常に機能していたとしても,光を受け取ることができなくなる。このような視細胞の変性に起因する失明に対する唯一の視覚再建法として研究されている人工網膜は,残存する網膜の神経細胞を電気的に刺激することにより擬似的な光覚を生み出すというものである。
残存する網膜を電気的に刺激して光覚が得られるのであれば,残存する細胞に光を受け取る能力を何らかの方法で付け加えることができれば,視覚を回復させることができると考えられる。2000年以降,工学的技術の革新により,人工網膜研究が盛んに行われるようになったが,その一方で,遺伝子工学的技術を用いて残存する細胞に光受容能を与えようという試みもなされてきた。視細胞の光受容能を模倣するために,光受容に関与する視細胞の蛋白質,数種を神経細胞に発現させることで光受容能を与える方法(ChARGe法)1)や電位依存性カリウムチャネルの化学修飾による光受容能賦課(SPARK法)2)などである。しかし,いずれの方法もヒトへの応用となると技術的に難しいと考えられている。
このような背景のなかで,視覚とは何ら関係のない分野から,視覚のみならず神経科学分野で有用と考えられる1つの蛋白質の機能が報告された。それが「チャネルロドプシン」である3)。
チャネルロドプシンはクラミドモナスがもつ古細菌型ロドプシンである。「クラミドモナス」,聞き慣れない生物であるが,それほど特殊な生物ではなく,田んぼや池などに生息する緑藻綱に属する単細胞生物の一種である。クラミドモナスは,馴染みの深いところでいえばミドリムシのような生物で,鞭毛を2本もち,鞭毛を使って動き回り,光合成を行う。本項ではチャネルロドプシンの特徴的な機能と,筆者らが現在取り組んでいるチャネルロドプシンを用いた視覚再生研究について紹介する。
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