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視覚を代表とする動物の光受容過程の多くには,ビタミンAの誘導体であるレチナールを発色団としてもつ光受容タンパク質が関与している。最もよく研究されているのが脊椎動物の桿体視細胞に存在するロドプシンである。そのため,これらの光受容タンパク質をロドプシン類と呼ぶことが多い。ロドプシン類は7回膜貫通α-ヘリックス構造をもつ膜タンパク質で,その構造やアミノ酸配列モチーフは神経伝達物質受容体やホルモン受容体などと共通である。また,これらの受容体は,受容したシグナルを三量体Gタンパク質を介するシグナル伝達系に伝える。そこで,ロドプシン類を含めたこれら一群の受容体はGタンパク質共役型受容体(GPCR)と呼ばれている。
分子系統樹の解析から,ロドプシン類を含むGPCRの一群は共通の祖先から分子進化してきたと考えられている。一般に,GPCRは拡散性のアゴニスト(低分子化学物質やペプチドなど)を結合することにより活性状態になり,Gタンパク質を活性化する。ロドプシン類ではタンパク質部分(オプシン)にもともとアンタゴニスト(11シスレチナール)が結合しており,光エネルギーを使ってそれをアゴニスト(全トランスレチナール)に変換することにより活性状態になる。これまでのロドプシン研究のおもな対象であった脊椎動物のロドプシンは, アゴニストと直接結合する能力はなく,光受容によってのみ活性状態になる1)。もしロドプシンがアゴニストを直接結合すれば,それは光がこない状態で活性状態になる確率が増え,視細胞の暗ノイズの原因になると考えられる。したがって,分子進化の過程でアゴニストを結合する能力をなくしたことが,脊椎動物における高感度な光情報伝達系の構築に至ったと想像できる。では,どのようなメカニズムでこの性質が獲得されたのだろうか。ロドプシン類の分子進化を考える上で重要な課題である。
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