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はじめに
加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)は高齢者の黄斑部に生じる疾患であり,欧米をはじめとする先進国における高齢者の中途失明や視力低下の主原因となっている。近年,さらに増加傾向がみられるが,特効的治療法は現時点ではなく,病因解明と新しい治療法の開発が待たれるところである。
AMDの有病率や発症率を調べるために欧米では数々の疫学研究が行われてきたが,わが国においては一般住民を母集団としたpopulation-based studyが行われているのは福岡県久山町の久山町研究のみである。この久山町研究によるとわが国においてはAMDの有病率は50歳以上の0.9%であり,そのうち脈絡膜新生血管(choroidal neovascuralization:CNV)を伴う滲出型(wet type)は0.7%,地図状脈絡膜萎縮を認める萎縮型(dry type)は0.2%であった。これら有病率から,日本人のAMDは欧米の白人の有病率よりも少なく,黒人の有病率よりも多いことが推察された1)。欧米の調査ではAMDの危険因子が数多く報告されているが,わが国では加齢,男性,喫煙が危険因子として関与していると報告されている。また,その後の追跡調査によるとわが国のAMD 5年発症率は0.8%で欧米の結果とほぼ同等であり,最近5年間でわが国のAMDは増加傾向にあることがわかる2)。
Birdら3)は,1995年にAMDに関連して,加齢に伴う黄斑の変化を加齢黄斑症(age-related maculopathy:ARM)と提唱し,その国際分類を行った(表1)。ARMを初期型(early ARM)と後期型(late ARM)に大きく2つに分類し,AMDは後期型に属する。初期加齢黄斑症とはドルーゼン,hyperpigmentation,hypopigmentationなどいわゆるAMDの前駆病変といわれているものである。後期加齢黄斑症は滲出型と萎縮型に分けられ,滲出型にはCNVが関与している。
本稿ではAMDの前駆病変である初期加齢黄斑症を含め,加齢黄斑症の分子生物学的病態解明と治療の可能性について,筆者が留学した米国ジョンズ・ホプキンス大学での経験を交えて解説したい。
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