- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
近年,眼表面の瘢痕性疾患に対する外科的,再生医療的手法が注目され,本誌でも大きく取り上げられている1~4)。一方,遺伝子治療は悪性腫瘍やある種の血管閉塞性疾患などのいくつかの分野ではすでに臨床使用が開始され,その有効性が報告されている。例えば閉塞性動脈硬化症とビュルガー病でヒト血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)とヒトアンジオポエチン1(Ang1)の組合わせ遺伝子導入や肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF)遺伝子の筋肉内投与である。米国ではこの種の疾患にVEGF遺伝子導入治療もタフツ大学で行われ,約75%の患者に効果がみられたと報告された。また血管拡張術後の再狭窄を防ぐ目的でNFκBデコイ治療の実施も承認された。しかし眼表面疾患での遺伝子治療は臨床には導入されていない。
ある遺伝子cDNAの導入が治療効果を発揮することが動物実験で判明した後は,臨床使用に適したベクターにその遺伝子cDNAを搭載し直して臨床応用に至るという道筋をたどると考えられるが,よりよいベクターの開発に眼科医が率先して携わることは容易ではない。本号は,眼科臨床に関連する最新の医工学に関する特集であるので,ベクターの開発にも言及すべきであると思われるが,本項では,本号の他項で扱われる眼表面の瘢痕性疾患を再度取り上げ,それに対するアデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療の可能性に関する筆者らの動物実験結果を中心に記載する。一方,遺伝性角膜ジストロフィも外科的対処に再生医学的手法を併用した治療方法が有効であると考えられるが,遺伝子導入による病態の責任細胞(上皮細胞または実質細胞)の表現系改変による治療は現実性をもつには至っていないと考えられるので割愛する。
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.