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水疱性角膜症に対する新しい治療法
角膜内皮細胞はポンプ機能とバリア機能によって角膜実質への水輸送をコントロールし,角膜の透明性の維持に重要な役割を果たす。角膜内皮細胞は非常に増殖能が乏しい細胞であるため,角膜内皮が障害されると,デスメ膜皺襞や角膜浮腫を生じ,さらに内皮機能が低下すると水疱性角膜症となって視力は著しく低下する(図1)。水疱性角膜症にはFuchs角膜内皮ジストロフィなどの角膜変性症によるもののほか,白内障手術や硝子体手術などの内眼手術やアルゴンレーザーによる虹彩切開術によって生じる医原性のものがあり,社会の高齢化や眼科手術件数の増加によって今後もさらに増加することが懸念されている。水疱性角膜症に対する治療は全層角膜移植術(penetrating keratoplasty:PK)が行われているが,PKには角膜全層を切開することによる角膜乱視,創傷治癒の遅延,縫合糸に関連する術後のトラブルなどが伴う。
同志社大学再生医療研究センターでは,京都府立医科大学の木下茂教授らとともに,水疱性角膜症に対する新しい治療法として再生医療の観点に基づく培養角膜内皮シート移植の開発を行っている。この治療法のコンセプトは,ドナー角膜から採取した少量の角膜内皮細胞をin vitroで培養して増殖させ,コラーゲンシートなどのキャリア上に播種して作製した培養角膜内皮シートを移植するものである(図2)。小さな切開創から,角膜を全層切開することなく培養角膜内皮細胞を前房内に挿入し角膜後面に移植することができれば,術後の乱視や縫合糸によるトラブルを回避できるほか,immunologically privileged site(免疫学的に特異な部位)である前房内に角膜内皮シートを移植することによって,全層角膜移植に比べて拒絶反応のリスクを少なくすることができる可能性がある。また,ドナー角膜の不足が問題となっている日本においては,角膜内皮細胞を培養,増殖させることにより複数の患者に移植することができるため,ドナー角膜が有効に利用でき,より多くの患者に角膜移植の機会を与えることができるメリットがあると考えられる。
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