今月の臨床 遺伝子医療—現況と将来
悪性腫瘍の遺伝子診断,遺伝子治療
1.癌遺伝子診断の現況
井上 正樹
1
1金沢大学大学院医学研究系研究科・がん医科学専攻・機能再生学講座・分子移植学(産科婦人科学)
pp.908-912
発行日 2001年8月10日
Published Date 2001/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409904403
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はじめに
癌は遺伝子の異常の蓄積により生じる遺伝子の病気である.正常細胞が遺伝子異常を積み重ねることにより,正常な細胞増殖のコントロールから逸脱し,増殖の速い細胞へと変化し,これらは増殖活性の高い細胞集団を形成する.このうちさらに増殖に有利に働く遺伝子変異や不死化能を獲得した単一細胞がクローナルに増殖して集団を単一クローンで置き換える.さらに遺伝子変異を蓄積し,浸潤・転移能を獲得してがんの特性を完成させることになる.この一連のプロセスは“多段階発がん”と言われる.この概念が臨床的にも確信を得るきっかけとなったのが網膜芽細胞腫である.この腫瘍の家族性と散発性の発生様式の違いからKnudsonが1971年“がんの2ヒット説”を提唱した.すなわち癌の発生には少なくとも対立遺伝子のうち両方に変異が必要であるが,家族性に対立遺伝子の片方に異常がある人はもう片方の異常のみで癌になるため癌発生が容易となる.その後この概念は,1986年のWeinbergらによる初めての癌抑制遺伝子(RB遺伝子)の発見により確証を得ることとなった.
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