今月の臨床 生殖医療とバイオエシックス
出生前診断
3.着床前遺伝子診断
鈴森 薫
1
1名古屋市立大学医学部産科婦人科
pp.1066-1068
発行日 1999年8月10日
Published Date 1999/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409903743
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1989年,英国で,X連鎖遺伝病保因者である女性の卵子を用いた人工授精で得られた初期胚の性別判定を行い,疾患の発症を免れる女性胚のみを子宮内に戻し,正常女児の出産成功例が発表された.本法の意味するところは重篤と思われる遺伝病を受け継いだ子供の妊娠そのものを回避できることが証明されたことで,従来の胎児を対象とした絨毛採取や羊水穿刺に取って代わるものとして期待を集めた.この新技術がバイオエシカルな面で通常の出生前診断とおおいに異なる点は,「異常胎児の中絶」がなくなることである.
米国では本法の臨床応用の是非についてプロチョイス派とプロライフ派との間で激しい論争が繰り返された.プロチョイス派は重篤な遺伝病をもつ可能性の高い夫婦が「健常な子供」を生むためにこの技術を受けるべきだとする一方で,プロライフ派は絶対反対の姿勢をとり続けた.いずれの団体も問題としているのは,従来の胎児を対象とした診断法でない着床前の初期胚の生命をどのように考えるかという点にある.産む産まないを決めるのは女性およびカップルであるという立場にあるプロチョイス派の人達は,初期胚診断は中絶を希望するカップルに新しい選択肢を与えるものとし,妊娠中に起きる問題である「異常胎児の中絶」や妊婦の被る身体的・肉体的苦痛を考えれば,異常な初期胚を細胞レベルの段階で選択できる点,バイオエシカル的にみてより容認されやすいものと位置づけた.
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