今月の臨床 生殖医療とバイオエシックス
出生前診断
2.トリプルマーカー検査
寺尾 俊彦
1
1浜松医科大学
pp.1058-1065
発行日 1999年8月10日
Published Date 1999/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409903742
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
従来,高齢妊娠,染色体異常児出産既往を持つ妊婦のように染色体異常児出産のリスクが高い妊婦に対して,希望があれば適応を限って,羊水細胞染色体検査や絨毛細胞染色体検査が行われてきた.これらの検査は侵襲的な方法でもあり,その対象は限定されていた.しかし近年,末梢血採血という比較的侵襲の小さい方法で行われる妊婦血清マーカースクリーニング検査が登場し,今,この検査の位置づけが問題になっている.妊婦の血液を用いて胎児の21トリソミー(ダウン症),18トリソミー,神経管閉鎖不全をスクリーニングする検査法である.
この検査は容易に行えるので,妊婦全例にマススクリーニングとして使われる可能性があり,胎児のふるい分けにつながるおそれもある.障害のある者が障害のない者と同様に生活し,活動する社会を目指すノーマライゼーションの理念は国際的にも広く合意されているが,もしもこの検査がマススクリーニングとして使われるとなると,障害のある胎児の出生を排除し,障害のある者の生きる権利と命の尊重を否定することにつながるとの懸念や,また,この検査は羊水検査とは違って確定検査ではなく,単なる確率として表現されるものであり,次のステップである羊水検査を受けるかどうかを決める際にも妊婦に精神的な動揺・混乱を招く可能性があるとの指摘がなされた.さらに,この検査は検査会社が主導する形で普及しつつある点でも問題があった.
Copyright © 1999, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.