今月の臨床 生殖医療とバイオエシックス
体外受精
4.生殖医療のビジネス化—精子・卵など生殖物質の商品化をめぐって
金城 清子
1
1津田塾大学学芸学部国際関係学科
pp.1038-1041
発行日 1999年8月10日
Published Date 1999/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409903737
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
あらゆるものを商品化,ビジネス化していく資本主義社会にあって,生殖医療の発達は,医療そのものに加えて,精子,卵という人体の一部の商品化を進めようとしている.したがって生殖医療をめぐる倫理問題を,その経済的側面に光をあてながら考察することは重要なことであろう.筆者はかつて生殖医療そのもののビジネス化を検討し,生殖医療に対して保険を適用していくことの重要性を指摘した1).本稿では,その際十分に展開できなかった精子,卵などの生殖物質の商品化について考察する.
ところで日本では,生殖物質の商品化を人々に強く印象づけた出来事が,1996年に発生している.インターネットを使っての精子の仲介ビジネスが始められ,医療として行われてきた提供精子による人工授精に,業者が利潤追求のために介入しようとしたのである.これに対して日本産科婦人科学会は,「非配偶者間人工授精と精子提供に関する見解」という会告を出して対処した.「精子提供は営利目的で行われるべきものではなく,(医師は)営利目的での精子提供の斡旋,関与もしくは類似行為を行ってはならない」として,精子の商品化に歯止めをかけようとした.医師さえ協力しなければ,医療行為である人工授精は行えないから,業者の仲介行為は無意味になり,仲介業は成り立たないはずだった.しかしこの業者は,現在でもインターネット上で堂々と営業を続けている.
Copyright © 1999, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.