今月の臨床 生殖医療とバイオエシックス
体外受精
5.社会の受け止め方
大野 善三
pp.1042-1043
発行日 1999年8月10日
Published Date 1999/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409903738
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体外受精に賛成か反対かを表す統一した意見はないというのが現状である.したがって,体外受精の「社会の受け止め方」も,一つにまとまった受け止め方はない.まことに平凡な結論だが,これがかえって健全な態度だと思う.不妊に悩む夫婦は,体外受精をしてでも子供が欲しいと思うし,一度の性接触で直ぐに妊娠してしまう女性は,体外受精にまったく無関心である.妊娠しやすい体質の人は,「そうまでして,子供が欲しいか?」と,体外受精に疑問を持っている.逆に不妊に悩む女性は「まー,冷たい.自分は子供を持っているからって」と,不妊に対して複雑な思いをしている.人は自分中心に考えるために,自分勝手でもある.だから個人の権利を大切にする社会が,思考の多様性を認めるのは当然である.
これが,子供を必ず持たなければならないと,まるで「産めよ,増やせよ」を唱えた戦時中のような社会背景があったり,「子供を持つことは絶対に許さぬ」と宣言した,西欧中世の絶対王政が醸す全体主義風土は,まことに不気味である.そういう意味では,今の日本は自由だといえる.
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