今月の臨床 婦人科腫瘍境界悪性—最近の知見と取り扱いの実際
最近の知見
5.絨毛性疾患
藤野 敬史
1
,
藤本 征一郎
1
1北海道大学医学部産婦人科
pp.1020-1022
発行日 1996年8月10日
Published Date 1996/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409902619
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絨毛性疾患は,胞状奇胎(全胞状奇胎,部分胞状奇胎/侵入,非侵入),絨毛癌,PSTT (placental site trophoblastic tumor),存続絨毛症に分類されている.かつてはこれらは絨毛性腫瘍として位置づけられ,胞状奇胎から破壊性胞状奇胎へ,さらに絨毛癌へと進展する図式が考えられており,破壊性胞状奇胎がいわば境界悪性に相当するものと捉えられていた.しかしその後の細胞遺伝学的研究,最近の分子生物学的研究により胞状奇胎(侵入奇胎を含む)は発生異常であることが明らかとなった.また絨毛癌には必ずしも胞状奇胎との連続性がなく,すべてのタイプの妊娠に続発する腫瘍であることが明らかとなっているので,上述の図式は現在では成立しなくなっている.したがって境界悪性というカテゴリーに含めて論ずることは適当ではないが,絨毛癌の高率な発生母体となる胞状奇胎は,父親由来の染色体のみを選択的に継承し,多数の対立遺伝子がホモ接合となるという遺伝学的特徴のため,癌化機構についても大きな興味が持たれている.
近年,ヘテロ接合性の消失と残存アレルの変異によって生ずる癌抑制遺伝子の不活化は.発癌機構の一段階であることが明らかにされた.発生過程においては,特定の遺伝子において片親由来の遺伝子の発現が抑制されるゲノム刷り込み(genomic imprinting)という現象が知られている.
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