今月の臨床 妊娠と血液
血液疾患と妊娠・分娩
14.先天性血液凝固異常
小林 隆夫
1
1浜松医科大学産婦人科
pp.608-612
発行日 1995年5月10日
Published Date 1995/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409902123
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最近の遺伝子操作技術の進歩により血液凝固線溶系因子の構造はほとんど決定され,異常遺伝子の解析から,遺伝病の出生前診断も可能となってきた.従来凝固因子異常症の治療は輸血や血液製剤による補充療法が主体であったが,これはAIDSや肝炎などウイルス感染のリスクを内在している.今後は遺伝子組み換え凝固因子による治療や,さらに将来正常遺伝子を導入された遺伝子治療が可能となろう.
近年先天性凝固因子異常症患者の生存年数も延長し,妊娠・分娩例が増加してきた.妊娠中多くの凝固因子は増加してくるので,もしいずれかの凝固因子が先天的に不足していても,それが妊娠によって増加してきたり,他の因子が代償的に働くこともあり,分娩時の出血は正常範囲にとどまることが多い.すなわち妊娠・分娩時には特異的な止血機構があり,一般に子宮腔からの出血に限っては止血しやすいものである.しかし裂傷部からの出血や血腫は補充療法をしなければ止血しない.血液疾患合併妊婦の分娩は産科的適応のない限り計画的な経腟分娩を原則とし,切創や裂傷を作らないことがたいせつである.また分娩開始と同時に十分な補充療法を行うべきである.
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