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“胎児仮死”という言葉は一般臨床では“胎児が危険である”と言う意味で頻繁に使われる言葉である。日本産婦人科学会の定義では「胎児・胎盤系における呼吸・循環不全を主徴とする症候群」とされているが実際にはその定義に基づく解釈が非常に曖昧な中で,われわれはその病態を把握するまでにいたらず,曖昧模糊とした状態で診療していると言っても過言ではない。胎児仮死の病態の理解と,診療の向上のためには同じ定義と認識のもとで論議を深める必要がある。従ってわれわれが行ってきた胎児仮死の病態,診断に関する研究の結果を紹介する前に,まずわれわれの研究方針を決定する簡単な定義を示しておきたい。「何らかの処置をしなければ,児は重篤な機能障害を残す可能性のある胎児の酸素摂取不全状態」というのが現在の時点での定義であるが,これは,Parerが述べている“補正または回避しなければ非可逆性の中枢神経障害を残すか,死にいたる持続的な胎児虚血状態”としている定義1)とほぼ同様である。しかしわれわれは一歩踏み込んで中枢神経系の障害のみならず循環系を含めた胎児臓器の障害を起こす可能性のある状態という認識に基づいている。このような胎児仮死に陥っている胎児はどのようにして低酸素状態と戦っているかを理解し,胎児がわれわれに与えてくれるwarning signをいかに的確にとらえ重篤な障害の発生を回避できるかを追求することが胎児仮死の病態を研究する基本であると考える。本稿ではこのような観点から行ってきたわれわれのヒツジ胎仔の生理学的慢性実験モデルを用いた急性胎児仮死(便宜的に欧米におけるacute fetal distressを称する)での実験の結果を示し,また現在のところ慢性胎児仮死(chronic fetal distressを称する)の動物実験モデルは確立していないため,臨床的に胎児採血により得られた胎児血所見と各臨床検査所見からその病態にも言及する。しかしながら,acuteとchronicでその病態が異なる部分と,類似する部分が有り,またいわゆる,acute on chronicな状態では,またその病態も複雑に異なると思われるので,本稿で述べる結果が胎児仮死の病態全てを反映するとは言い得ないことをあらかじめお断りする。さらに,上述のごとき現状を踏まえつつわれわれの実験と臨床データをもとに考察したい。
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