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若齢のラットやマウスでは4〜5日に1回,ヒトでは約28日に1回排卵するという周期性がみられ,これは下垂体前葉からの生殖腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)の周期的な分泌に基づいている。一方,老化に伴ってゴナドトロピンの分泌機能は低下し,無排卵となり,生殖機能は衰退する1)。ラットなどの齧歯類では視束前野や前視床下部がゴナドトロピンの周期的な分泌に重要な役割を果たす一方,弓状核などを含む内側底部視床下部はゴナドトロピンの持続的分泌を調節する神経機構であるというように,ゴナドトロピンの分泌調節は脳の支配を受けている2)。ゴナドトロピン分泌調節の神経機構の最終的な情報は神経分泌ニューロンの産生する黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)として,下垂体門脈系を経て下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞に伝えられる。LHRH産生ニューロンは視束前野,視床下部,大脳辺縁系や脳幹と直接あるいは間接的に神経連絡し,複雑な神経回路を構成している。LHRHニューロンの分泌活動は,それらの促進的または抑制的な神経性情報のみならず,性ホルモンのフィードバックによる液性情報によっても調節されている。先に述べたように,加齢に伴ってゴナドトロピンの分泌機能は低下し,生殖活動は衰退する。ゴナドトロピンの分泌調節は脳の性中枢の支配下にあるので,老化に伴う性中枢の神経機能の低下がゴナドトロピン分泌パターンの変調に反映しているものと思われる。ゴナドトロピン分泌調節を駆動する神経機構において,加齢に伴う神経回路の変化,神経伝達物質の代謝の変化,LHRHなどのニューロペプチドの代謝の変化,性ホルモンのレセプター量の変化等いろいろな変化が複雑に影響しあって性中枢の神経機能が減退してゆくものと考えられる。ラットの内側底部視床下部を構成する神経核の1つで,ゴナドトロピン分泌調節の統御機能に重要な役割を果たしている弓状核の老化に伴う形態学的変化,ニューロンの可塑性や弓状核を含む視床下部の脳内移植の研究を中心に,老化に伴う排卵やゴナドトロピン分泌に関与する神経内分泌調節機能の変調のメカニズムやそれを制御するメカニズムを考えてみたい。
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