明日への展開--ヒューマンバイオロジーの視点から 胎児--その自立と依存
胎児の行動
上妻 志郎
1
,
岡井 崇
1
,
水野 正彦
1
Shiro Kozuma
1
1東京大学医学部産科婦人科学教室
pp.903-907
発行日 1984年12月10日
Published Date 1984/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409207093
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本特集は胎児の自立と依存ということなので,そのような視点から胎児の行動をながめてみたい。
まず,胎児の代謝系に関しては,それを構成する酵素の発現や活性化はいうまでもなく胎児自身の遺伝形質に依存しており,その意味で胎児の代謝系は母体から独立しているが,代謝系を作動させるのに必要な酸素や代謝の素材となる栄養分の摂取に関しては完全に母体に依存しており,その状態は出生に至るまで持続される。内分泌系に関してはホルモンの種類によりそれぞれ胎盤通過性が異なり,母体への依存度は様々である。甲状腺ホルモンは胎盤通過性がないため母体血中のホルモンが直接的に胎児に作用するということはなく,胎児自身による独立した合成分泌が行われている。一方,副腎皮質ホルモンは胎盤通過性を有しており,胎児は母体の日内変動の影響を受ける。そして妊娠末期になると初めてその影響から脱し自立するといわれている。このように胎児では,機能系の種類によりそれぞれ母体に対する依存性は異なっており,また同一の系においても依存性の度合は妊娠時期により異なっている。
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