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胚子,胎児の行動は,両親から受け継いだ遺伝的素因優位の下で,その形質的な発生学的分化発達に伴って出現するものとされており,胎児の発育に応じて単純な動きから,より複雑な動きへと発達と変化を遂げながらも,各時期に特有な一定のパターンを示しつつ出現している。これらの動きは身体的運動,呼吸様運動,吸啜運動など,出生後の個体生命維持のための動きの形成を示すのみならず,胎児期における中枢神経系の発達に沿った様々なヒトとしての動きが含まれているものと考えられる。従来,胎児の行動は,中枢神経系の発生分化に従った脊髄期,延髄—脊髄期,中脳—菱脳—脊髄期,間脳—中脳—菱脳—脊髄期における動きとして発生学的に区分されてきた。そして,動物実験における除脳処置など,中枢神経切断下での動きや母胎外における流産児など非生理的環境下での動きの観察結果をこれらの区分と対比させ論じられている。しかるに,近年における超音波電子スキャン検査の登場は,より生理的環境下での胚子,胎児の動きの観察を容易に可能とし,妊娠初期から末期までの胎児の発育と行動の発達についての研究は急速な進展を示してきた。
筆者も1974年以来,産科外来における超音波検査の中でこれらの観察を行い,観察結果については既に幾つかの報告をしてきたが,妊娠各時期に示される胚子,胎児の行動の中には中枢神経系の分化発生区分に厳密に従ったもののみではなく,何れの時期においてもそれらの区分より上位の中枢の未熟ながらも様々な程度の影響を受けていると思われる動態が示されているものがあった。これは胎児の中枢神経系の分化発達が,いかなる部位においても分離切断された状態で行われるものではなく,脊髄より上位の様々な中枢が分化発達の進行の度合を異にしながら平行して発達していくためとも考えられる。一般的には,胎児は妊娠末期でも皮質下動物として位置付けられているが,神経発生学,生理学的所見では大脳皮質のニューロンは既に妊娠8週から発生分化が始まっており,生物学的活性を示す活動電流は妊娠10週より認められると報告され,それより下位の間脳−中脳−菱脳部位の中枢にも同様の現象が妊娠初期から認められている。
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