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はじめに
1960年代の初頭に開発された胎児心拍数の連読モニター法(FHRモニタリング)は1970年代以降多くの国で使用され,分娩中の胎児死亡や仮死児出生の頻度を低下させると期待されてきた.しかし,その後の臨床研究からFHRモニタリングは帝切率を高める一方で期待通りの成績が得られていないとの指摘がなされている1~3).特に長期予後に関しての,1996年のNelsonらのnegativeな報告4)には世界中が衝撃を受けた.そして,これを機に,米国を初め諸外国においてFHRモニタリングの意義や有益性についての再検討が始まった.
その結果,分娩中に胎児の状態(低酸素・酸血症の有無)を監視するFHRモニタリングの重要性に対する認識は変わらなかったものの,胎児心拍数パターンの判定における検者間誤差が大きいことと,胎児の状態が悪いと診断することの高い偽陽性率が問題として浮上してきた.
これを受け,米国では1997年に胎児心拍数パターン判定の定義に改訂を加え5),また,1998年には陽性的中率の低さ(高い偽陽性率)を意識して,“Fetal Distress”という診断名の変更を実施した6).日本産科婦人科学会周産期委員会も2001年には,胎児の状態に対する診断名の改訂を行った7).すなわち,これまでの胎児仮死・胎児ジストレスを廃止してAmerican College of Obstricians and Gynecologists(ACOG)が提案した英語のNonreassuring Fetal Status(NRFS)を使用することが決められた.胎児心拍数パターンの判定基準のほうは,2003年の周産期委員会報告8)で米国のNational Institute of Child Health and Human Development(NICHD)の勧告に沿った日本の定義が提言されていたが,NRFSの日本語訳の決定には年月を要した.委員会での数年に及ぶ議論の末,2006年にようやく“胎児機能不全”の診断名が決定されたのである.
以上の経緯を経て,最後に残ったのが取り扱い指針の変更であった.NICHDは,基線と基線細変動が正常で,一過性頻脈があり,一過性徐脈がなければ胎児の酸素化に問題はなく,逆に,基線細変動の消失に繰り返す遅発一過性徐脈,変動一過性徐脈あるいは遷延一過性徐脈(または徐脈)を伴う場合は胎児が低酸素・酸血症に陥っている可能性が高いと言及しているが,それらの間に位置するパターンについては,取り扱いに関する提言はできないと報告している5).
しかし,実地臨床の現場では,上記の二極以外のパターンを呈する症例が多く,わが国の産婦人科医からはそれらの症例に対する取り扱い指針の作成を要望する声が高まった.そこで,周産期委員会内の小委員会がその役割を担い,2007年に指針の作成に着手した.
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