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新生児呼吸障害の範囲を今回は,いわゆるR.D.S.(Respiratory Distress Syndrome)として表現されている生後数日までの新生児肺の適応障害に限定して主要な症例の写真を示し,2〜3の鑑別診断にふれたいと思う。この狭義のR.D.S.にしても,その解釈が人によつてかなり大巾に違うことがあるし,R.D.S.以外の呼吸異常を呈する疾患を診断するレベルが低ければ,それらまでR.D.S.のなかに含めてしまうことさえ少なくない。たとえばR.D.S.のなかに含めて考えられている肺硝子様膜症については,病理学者間で剖検診断のうえで大巾な差があり,ある人は全肺野に著明な所見のあるときだけを本症とするために全新生児剖検例の4〜5%にとどまるのに対し,他の人は部分的所見だけで本症とするために20〜50%もの高頻度になるという状態である。したがつて臨床側にもそれが反映して肺硝子様膜症の診断のしかたに,当然大きな違いがみられるようになり,場合によつては学会で臨床家間の本症に関する討論が的はずれになつてしまうことさえありうる。
以上に述べたようにR.D.S.のなかの各種肺病変を臨床診断することは,まだ問題が多く,筆者もきわめて定型的な限局した肺出血や肺野の大半に網状小顆粒状陰影がみられるとき肺硝子様膜症の疑と診断するだけで,その他はすべて新生児肺不全として大まかにまとめて診断することにしている。ただここでどうしても区別して診断したいのは,羊水過度吸引massive aspirationで,産道内で胎児仮死切迫のために排出された胎糞などで濁つた羊水を気道内に深く大きく吸引してしまい,肺野全体に粗大顆粒状または粗大網状陰影がみられ,しばしば辺縁に自然気胸をともなう。これらの肺野の性状が区別できるほど印刷された写真では見にくいかもしれないが,一応比較的定型的なレ線写真を示すことにする。
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