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編集後記
神崎 秀陽
pp.1264
発行日 2012年12月10日
Published Date 2012/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409103232
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各種報道を見ていると,大震災と津波の影響からの復興は遅々とした歩みではあるものの着実に進んでいるようです.その一方で,福島における原発事故後の放射能汚染問題については,なお解決には程遠い状態です.過日,福島県立医大産婦人科の同門会誌を非常に興味深く読ませていただきましたが,震災後の産婦人科診療の問題点の解析と今後の展望とともに,診療中に遭遇された生々しい経験談も多数掲載されていました.そして今後も継続するであろう,周産期や生殖医療に関する根拠のない放射能汚染風評への強い懸念が感じられました.
エネルギー政策における原子力発電の位置づけについての政府の対応は,世論と産業界の意見の狭間で右往左往しているように思われます.これから人口減少社会が来るとはいえ,高価な自然エネルギーや火力発電のみで供給することを選択すれば,個人や企業の負担が増加して家計への影響や産業の空洞化が起きるとする産業界の懸念はもっともです.事実,先般すでに原発廃止を国是としたドイツにおいては,今後は家庭の電気料金も大幅に値上げされるということも報道されました.このような国民の理解と覚悟がわが国でも得られるのか,労働環境や社会意識の水準から見るとなお欧州から20年は遅れているわが国では,はなはだ疑問です.さらに同じ欧州でも,フランスやイギリスの政府は今後も原発依存を改めるつもりはなく好対照となっており,また多くの開発途上国では,なお積極的に原発設置が推進されています.脱原発は,世界レベルでは一部の先進国での議論ですが,被災したわが国がそのモデルとなれるのか,海外からも注視されています.
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