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インターネットの医師向けサイトには,その内容から見て,さまざまな年齢の多様な経歴を有すると思われる方々からの意見が書き込まれています.それらの多彩な意見には,各自が医師としてこれまで社会とかかわってきた経緯が色濃くあらわれており,医療事故や訴訟に関するものでは,社会一般やマスコミが不当に医師をバッシングしているという被害者意識的な内容が圧倒的に優勢です.医療界の常識が社会一般には通用しないことが多々あることは驚くにあたりませんが,医師と患者との関係を対立するものと捉えて,患者の,ひいては社会の,医師あるいは医療に関する認識不足および過大な期待と要求があることが,医療訴訟が増加してきた原因であるという意見が目立ちます.産婦人科や救命救急など一定のリスクが避けられない診療科を選択する医師が少なくなっている根底に,このような医師自身の社会および患者認識があることは否めません.
社会環境の変化とともに,医師の職業意識も変わってきていると感じます.医師となる動機や適性についてあまり深く考えることなく,学業成績を基準にして医学部を受験したとしか思えない者がいることは事実です.医学部入学のための選抜試験の難易度はその国の文化・科学の先進度に逆比例し,また医師の社会的位置づけもしかりです.社会を動かしているのは政治・経済および科学であり,医療はその国家の政策にしたがって,国民の健康維持に貢献する役割が期待されている一種のサービス業ですので,優秀な若者が政治や経済界のリーダーをめざすという欧米の状況は当然でしょう.わが国でも医師の適正配置(専攻科および就労地域の規制)に関する議論が急速に起こりつつありますが,現状の医師偏在を医療界自身が主体的に解決できなければ,いずれは必ずそのような政策が導入されると予測されます.
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