今月の臨床 ART─いま何が問題か
生殖医学・医療のトピックス
7.がん・生殖医療:化学療法後POF治療ならびに卵巣組織凍結
杉下 陽堂
1,2
,
鈴木 直
1,2
,
石塚 文平
1,2
1聖マリアンナ医科大学産婦人科
2聖マリアンナ医科大学生殖医療センター
pp.814-818
発行日 2011年6月10日
Published Date 2011/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102704
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はじめに
がん患者のがん治療後による卵巣機能不全は,治療年齢により将来妊孕性が消失する可能性を含む問題である.BroughamとWallace は高用量化学療法や全身放射線治療が小児および若年女性がん患者に対する治療後卵巣機能不全の高リスクであると指摘している1).妊孕能温存の方法として女性では手術時に卵巣移動術を施行することにより,放射線治療による影響を軽減する方法や,GnRH agonistを併用することで化学療法の影響を軽減する方法が以前より取られてきた.近年,高度不妊治療技術が進み,がんと診断された場合に,治療開始前に夫がいれば体外受精・胚凍結を実施し,単身であれば卵子凍結を実施する試みが行われてきた.また男性の場合も同様に,精子凍結,精巣組織凍結が実施されている.しかし実際にがんと診断され,手術や化学療法の治療開始日が決定した際に,高度不妊治療技術にて十分に妊娠可能な胚もしくは卵子を獲得することは,女性の場合,月経周期の関係から非常に困難である.
2004年,ベルギーのDonnezら2)はホジキン病の患者に対し卵巣組織凍結を実施し,その組織をがん治療後に移植することで自然排卵し,妊娠,出産と成功を納めている.この報告を初めに,2005年イスラエルのMeirowら3)は非ホジキン病の患者に対し,同様の技術を行い体外受精にて児を獲得している.その後も2006年にはデンマークでの,Rosendahlら,Andersonらの報告とつぎつぎと報告が続き4),2011年1月AnnMedにDonnezら5)が報告したレビューによると,現在10名を超える生児が出産している.
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