今月の臨床 ART─いま何が問題か
統計から見たわが国のART
桑原 章
1
1徳島大学医学部産婦人科
pp.750-756
発行日 2011年6月10日
Published Date 2011/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102692
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はじめに
1978年,英国で世界初のART児が誕生した5年後,1983年にわが国でも初のART児が出生した.筆者が籍を置く徳島大学病院でも1982年に全国に先駆けて医学部倫理委員会が発足し,体外受精が許可され,1984年に無事第1例目の出産となった.当初より全国のART治療をまとめている日本産科婦人科学会の報告1)によると2008年現在,ART実施施設数(登録施設数)は609施設に及ぶ.近年の登録施設数および周期数の推移(図1)をみると,登録施設数は2002年以降ほぼ横ばいとなり(2006年に減少したのは,全登録施設を対象に再審査を行い,抹消となった施設が多かったため),わが国におけるARTは普及期に達していると推測される.一方,ART実施周期数(登録総数)は年々増加の一途をたどり,2008年では190,613周期が登録されている.特に2004年以降,登録件数が一段と増加しているのは,2004年に始まった「特定不妊治療助成制度」の影響も少なからずあると推測される.1989年には449名,全出生の0.04%と全人口に対して非常に稀であったART出生児数も年々増加し,2008年には21,704人が出生している.実に全出生児の2.0%がART児となっている.
これまで30年間のARTの発展,普及には目を見張るものがあるが,卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多胎妊娠などの副作用,患者から見て高いとはいえない成功率,非配偶者間ARTなどの社会的問題,さらに助成制度の効果と生まれてくる児の安全性など,解決の道筋が示されている点,今も未解決な点,さまざまである.
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