今月の臨床 ART 2006
ARTの健全な発展のために
ARTの現状─わが国と世界の動向
石原 理
1
,
出口 顯
2
1埼玉医科大学産科婦人科
2島根大学法文学部文化人類学
pp.11-15
発行日 2006年1月10日
Published Date 2006/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100002
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はじめに
1978年にルイーズ・ブラウンが誕生したとき,「試験管ベビー」(今日的にはほとんど死語となっているが,差別的ニュアンスを持つこの言葉が当時は一般的に用いられた)の数がわずか四半世紀のうちに数多くの国において出生する児の1~2%を占めるようになろうとは,パトリック・ステプトーとボブ・エドワーズも想像しなかったに違いない.いまや体外受精胚移植(IVF─ET)に代表されるART(assisted reproductive technology)は,ヒト生殖のあり方の1つとして確立したといって過言でない.
しかし,ARTに関連する多くの問題が,この間に解決されたわけではない.ARTの発展に伴って出現した多くの課題,例えば多胎妊娠の増加は,早産未熟児治療に費やされる医療費や医療施設整備,さらには子育てに対する社会的援助の必要性につながるように,単に医学的対応の問題だけでなく,社会的な課題と密に連関してきた.また,わが国において,少子化という形で端的に顕在化している家族や社会についての価値観の多様化は,結果であるか原因であるか議論の余地があるものの,20世紀第4四半期においてARTの進展と世界的に同時進行した表裏一体の事象というべきであろう.
本稿では,わが国と世界のART動向を,いくつかの視点から概括し,わが国における眼前の問題を解決するための手がかりを抽出することを試みる.なお,具体的な数字として取り上げる外国データは,ARTに関する統計が整備された英国と北欧各国,さらに米国となることをお許し願いたい.
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