今月の臨床 着床障害―生殖医療のブラックボックス
着床障害への対処法
3.接着分子トロフィニンによる着床促進
杉原 一廣
1
1浜松医科大学医学部産婦人科学講座
pp.862-867
発行日 2010年5月10日
Published Date 2010/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102388
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はじめに
着床は哺乳動物の生殖に特異的な現象であるが,種によってさまざまな特徴がある1).さらに霊長類に属する動物間でも着床現象に微妙な差があることが報告されている.「ヒトの着床現象」を明らかするためには“ヒト”と“ヒト以外”では使われる分子が同一でも調節機構や機能に差がある可能性を念頭において研究を進める必要がある.現在まで,ヒト着床の解明を目指して分子レベルで膨大な研究が行われてきたがいまだ不明な点が多々存在する.われわれは子宮内膜と胚盤胞(blastocyst)の初期接着をmimicする系をin vitroで確立し,この系を用いてヒトの着床における接着分子トロフィニンを同定した1~11).
ヒトでは卵管妊娠が全妊娠の約1%以上に起きるがヒト以外の霊長類を含む動物には基本的には起こらない1, 11).われわれは卵管妊娠の着床部位にトロフィニンが発現することを見いだした1, 2, 11).トロフィニンは絨毛のトロフォブラストと絨毛が隣接する卵管上皮に発現する.しかしながら着床部位からわずか5 mm離れた卵管上皮にはトロフィニンの発現は認められない.母体側ではヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin : hCG)が局所的にトロフィニンの発現を誘導することを明らかにした.さらにhCGと炎症性サイトカインであるIL-1βがヒト子宮内膜上皮細胞へトロフィニンの強発現を誘導することを報告した1).これらの基礎研究の成果を臨床へ応用すべくトランスレーショナルリサーチを進めている.
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