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はじめに
着床現象には胚と子宮内膜のそれぞれ調和のとれた成熟・分化が必要であり,しかも時間的・空間的に同調していなければならない.子宮内膜には胚の受容が可能である一定の期間implantation windowがあり,この期間は基本的には卵巣性ステロイドホルモンのみにより制御されていると考えられる.しかし近年のさまざまな研究により,この卵巣性ステロイド以外に,着床局所におけるサイトカイン,ケモカイン,接着因子,細胞外器質などの発現,さらには胚と子宮内膜との適切なコミュニケーションが子宮内膜の受容能獲得に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある.
生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)の発展により,これまでブラックボックスであった妊娠成立過程において,受精・分割を経た胚が得られるようになり,さらにはその過程が顕微鏡下に可視化されるようになった.したがって現在の着床不全の定義とは,形態的・機能的に良好と思われる胚を複数回移植しても妊娠が成立しない状態を指す1)ものと考えられる.しかしART以外の診療の場では子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど子宮内腔の器質的な異常がある場合以外はその診断は必ずしも明確なものではない.例えば着床不全の一因と考えられている黄体機能不全の診断と治療には,大きな幅がある.
ARTの技術進歩に伴い,これまで難治性とされた多数の不妊症カップルが妊娠可能となり,これらのカップルに多大な福音をもたらしてきたが,近年妊娠・生産率は頭打ちの状態にある.現在のこの状況を打破するためには新たなる着床障害への対処法の確立が望まれる.本稿においてはこの着床不全に対するホルモン療法に関して概説する.しかし,前述したように着床不全そのものの定義自体が不確実なこともあり,いまだブラックボックスである着床現象には未解明な部分が多い.したがって,その治療に関してはいまだ研究レベルのものが多く,エビデンスレベルの高い治療法はない.
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