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世界的に種々の理由により帝王切開分娩率が上昇してきていることは明らかな事実である.帝王切開分娩により明らかな新生児予後の向上がもたらされるというエビデンスはないものの,理論的には新生児のためには帝王切開分娩が安全であると考えられている.また,手術法,麻酔法,輸血,輸液管理,深部静脈血栓症の予防などの向上によって,帝王切開術の母体への安全性は向上してきている.一方,帝王切開術によって必ず生じる切開創の縫合部瘢痕の影響に関しては,術式の検討を含め,十分な検討がなされてきているとはいえない.帝王切開術の既往によって,月経後の出血が長引いたり,月経困難症,慢性的な骨盤痛が発生したりすることが報告されている1).また,帝王切開術後の妊娠において,帝王切開瘢痕部子宮外妊娠,破裂や前置胎盤,癒着胎盤の確率が高まることが知られており,胎児や母体の生命にかかわる合併症を引き起こす可能性が高まることが大きな問題となってきている2).分娩後子宮摘出となった症例の約半数の症例で癒着胎盤が原因とされ,さらにその65%が帝王切開手術施行の既往が認められたとされており3),英国での報告の前置胎盤に伴う母体死亡の症例の約80%が帝王切開術の既往と切開瘢痕部癒着であったとされている.さらに帝王切開手術瘢痕部妊娠の治療は,特に子宮を温存する場合に難しく,大出血に伴う母体死亡の例も報告されている.現時点で帝王切開瘢痕部の予防に関する検討は,一層縫合と2層縫合についての検討が散見されるところであり,確実な予防法はない4).最近,経腟超音波断層法による帝王切開手術後瘢痕部の観察についての報告が増加しているところであり,今後の検討が望まれる5, 6).
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