- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
哺乳類(真獣類)の妊娠の成立と維持には,初期胚のトロホブラスト(栄養膜)細胞への分化,着床や胎盤形成とその機能発現が不可欠である.トロホブラスト細胞はいかにして高い接着・増殖性,浸潤能,多核細胞形成能や胎仔胎盤という3次元構造の構築能を獲得したのであろうか?この十数年,トロホブラスト細胞の増殖や胎盤形成だけではなく,胎盤機能異常などにも内在性レトロウイルス遺伝子群の関与が考えられるようになった.
哺乳類(真獣類)の妊娠成立には,受精卵から発達した胚盤胞の孵化,着床,初期胎盤の形成やその機能発現が不可欠である.この着床過程に胚盤胞のトロホブラスト細胞は増殖や分化を経,やがて胎仔胎盤を形成する.この間,1核のトロホブラスト細胞(mononuclear cell)はendoreduplicationや細胞融合により,2核のトロホブラスト細胞(binuclearまたはbinucleate cell)や多核細胞(syncytiotrophoblast cell)へと分化していく.一方,発達し始めている尿膜は,外側に伸長し,やがて絨毛膜に接着・融合する(chorioallantoic fusion)ことによって尿絨毛膜(chorioallantoic membrane)を形成する.トロホブラスト細胞のなかでも多核細胞は,母児間バリアーの最前線に位置する(図1).実際,母体の血液は子宮動脈・螺旋動脈を経て,この多核細胞の集合層(labyrinth zoneまたはlayer,迷路層)に流入し,直接,トロホブラスト細胞と接触する.多くの場合,着床の基礎研究は臨床応用には縁遠いように思われてきた.ところが近年,子宮内胎児発育遅延(intrauterine growth retardation : IUGR),妊娠高血圧症候群(preeclampsia)1)やダウン症候群(Down's syndrome)2)にも,このトロホブラスト多核細胞の形成不全や機能不全が疑われるようになってきた.本稿では,このところ注目を集めるようになってきた内在性レトロウイルス遺伝子の発現を中心に,トロホブラスト細胞の2核細胞や多核細胞の形成,胎盤構造の違いや着床過程の時間的な差異から着床現象を考えていく.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.