今月の臨床 妊婦の感染症
妊婦の感染─胎児への影響と対策
3. リステリア
竹田 善治
1
,
安達 知子
1
,
中林 正雄
1
1総合母子保健センター愛育病院産婦人科
pp.834-837
発行日 2008年6月10日
Published Date 2008/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101792
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はじめに
リステリア症は,自然界に広く分布するリステリア菌(Listeria monocytogenes)による感染症である.わが国における平均発症件数は年間83件,人口100万人当たりの発症頻度は0.65と報告1)されており,通常は悪性腫瘍,AIDSなど免疫不全となるような状態でない限り罹患することは稀な疾患である.しかし妊娠中は,妊娠継続の必要性から特殊な免疫状態に置かれるため,本菌に対する感受性が約17倍高くなることが知られている2).
リステリア菌に感染した場合,妊婦の症状は発熱,感冒様症状など比較的軽微で非特異的であるにもかかわらず,児に対しては流早産や子宮内胎児死亡,早期新生児死亡などきわめて重篤な合併症を起こす.症状に乏しい感染母体から胎児に経胎盤感染が起きるため,妊娠中の診断が困難であること,免疫能の未熟な胎児への感染後の経過が急速かつ重篤であることなどが予後を不良にしている2, 3).このため,本症の迅速な診断・治療が望まれるが,一般的には早期の対応は困難で,多くは母体血や羊水などからリステリア菌が培養されたり,出生後に比較的特徴的な新生児の症状などから疑われ,本症が診断される.早期診断の手がかりとして,頻度は低いものの,周産期死亡率の高いリステリア菌を母児感染の原因菌として念頭に置いておくことが大切である.
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